Thursday, 23 July 2020

一枚の古いデニムシャツ

夫(ミャンマー人)が、結婚前から持っているお気に入りのデニムシャツ。

古いけど、縫製もしっかりしていて、デザインも素敵。全然、古臭い感じがしない。

来た時のシルエットがすっきりしてるから、きっと裁断が良いのね。

ちょっとフレンチコネクションみたいな感じ。違うけど。

ふと、そのシャツを洗濯して洋服ダンスに片づける時に、夫に言いました。

ワタシ:このシャツ、結婚前から持ってるねえ。古いけど、まだまだしっかりしてるし、デザインも全然古臭い感じがしないし、高品質なシャツやねえ。

夫:ああ、それね。ミャンマーで買ったんだ。

よく見ると、昔々、ティーンネイジャーの頃の夫の写真の中に、そのシャツを着て写っているものがあります。

ワタシ:おお。そんなに昔に買ったのね。すごい長持ちしてるなあ。ミャンマー製の服は丈夫やなあ。

夫:いや、アメリカ製やと思う。このブランド、調べてみたらアメリカのブランドやった。

ワタシ:でも、あなたが子供の頃のミャンマーって、社会主義だったから外国の物資は入ってこなかったって言ってなかった?

夫:うん。ブラックマーケットで買った。

ワタシ:えええ。違法輸入品?

夫:ええーっと…。違法輸入というわけではないと思うよ…。(ここで少し、言いにくそうになる夫。)

ワタシ:なんか言いにくそうやなあ。なんで?

夫:つまり…その…

ワタシ:その?(問い詰めるワタシ)

夫:先進国で寄付された物資が、ミャンマーに届いた後、その一部がブラックマーケットに流れてるんだよ。寄付として受け取った物資のなかで、品質の良いものは、仲介者がくすねてブラックマーケットに売るんだと思う。

ワタシ:えええ。(絶句)

チャリティー団体の裏側の汚いところを、一枚の古いデニムシャツという形で、まざまざと見せつけられてしまったワタシ。

でも、この素敵なデニムシャツをブラックマーケットで見つけて買った10代のミャンマー人少年(夫)は何も悪いことはしていないと思う。

物資の乏しいミャンマーで、アメリカ製のカッコいいシャツを手に入れた少年は、そのシャツを着て得意げにカメラの前でポーズをとっている。

少なくとも、そのシャツは、その少年をハッピーにしてくれたし、その証拠に、その後30年も大事にしてるんです。

寄付してくれた人の思いは、十分に果たされたと思います。

ただ、彼はそれを寄付物資として受け取ったのではなく、ブラックマーケットで、お金を出して買ったというだけで。

仲介業者が悪いのです。

チャリティー団体ってのは、表ではカッコいい事言ってるけど、その中には「慈善活動」という名目で動く資金や物資のおこぼれにあずかろうと、寄生虫のように群がる輩が紛れているのです。

ワタシ:ああ。チャリティー団体なんて、信用できないものなんやねえ。

夫:そうだね。どんなに大きな組織の有名なチャリティーでも、大なり小なりそういう事があるのは仕方がないと思うよ。

ワタシ:でも、それでも、あなたはチャリティーに寄付してるよねえ。

夫:僕たちみたいな一般市民には、自分で現地にお金や物資を持っていくだけの力もお金もコネクションもないから、チャリティー団体に託すしかないんだよ。
10ポンド寄付したうち、1ポンドが困ってる人に届いたら良しとしないとね。

そうかあ。

チャリティー団体にはある程度汚い部分がある、という事を受け入れた上で、それでも、自分一人ではできないことだから、人に託すってことなのね。

ここで、チャリティー団体に清廉潔白を求めて、「もう寄付なんかしない!」っていうのは、ナイーブなのかもしれません。

キレイ好きは良いけれど、潔癖すぎると、それよりも大切なものを見失ってしまうかも。

お父さんの洗濯物を、自分の洗濯物と一緒に洗いたくない女子高生みたいにね。










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